鍼灸師の方が、患者さんや鍼灸師同士の会話で、『気の流れを調整する』、『気を廻らす』、『気を高める』などの言葉を使っている事を、時々耳にします。『気』について調べると、『生命エネルギー』のことをいいます。正直言って、現代の一般の人たちには、不可解な言葉であり、すんなり納得できない表現と思います。実際に『気』とは、目に見えるものではなく、実態がつかめないモノだからです。
また、鍼灸治療が普及しない原因として、現代医学のインフォームドコンセントの観点から、鍼灸師の方々が、理解し難い古人の使っていた言葉を、現代の人々にそのまま伝えるということで、現代に合った表現に変える努力をしなかったことが普及しない一つの原因と考えられます。
これから鍼灸治療を広めていくには、このような現代の人たちにも理解できるような説明や表現方法を見直していく必要性があると考えます。
東洋医学の『陰陽論』の考えで、下記に示すように、相反する『陰』と『陽』が、相互関係を維持することで、自然界(身体)のバランスをとっているという考え方があります。
【陰】⇒ 下、内、夜、女、老、内側、裏、胸腹、下部、五臓、寒冷、慢性、暗、静、血、津液、液体
【陽】⇒ 上、外、昼、男、幼、外側、表、脊背、上部、六腑、温熱、急性、明、動、気、気体
上記の陰陽論から、『気』の性質は、【陽】のグループに属し、温かく、機敏で、動きがあるイメージが出来ると思います。
また、『気』の作用には、下記の作用があります。
温煦作用・推動作用・気化作用・固摂作用・防御作用
さて、現代医学には、生体の機能とそのメカニズムを解明する『生理学』という学問があります。この生理学を活用して、『気』についてご説明します。
身体の仕組みでは、食べ物は、口から入って、食道 ⇒ 胃 ⇒ 小腸 ⇒ 大腸 ⇒ 肛門(膀胱) の順に動いていきます。この過程で、食べ物は、下記のように色々な臓器でさまざまな栄養素に分解されます。
胃 ⇒ アルコール
小腸 ⇒ 水分、電解質(Na、K、Ca、Mgなど)、糖質、蛋白質、脂質、ビタミン(A、D、E、K、B1、B2、Cなど)…
大腸 ⇒ 水分など
そして、栄養素は摂取したままの形では身体の中に吸収されないので、下記のような消化酵素によって適度に分解され、各臓器から吸収されます。
口 ⇒ 唾液
胃 ⇒ 胃液
膵臓 ⇒ 膵液
小腸 ⇒ 腸液
このような食べ物を様々な成分に変化させる働きが、東洋医学の『気』に相当します。
また、その他の臓器には、下記のような働きがあります。
腎臓 ⇒ 水分・電解質の調節、体液pHの調節、ホルモンの産生や調節、代謝産物の排泄
肝臓 ⇒ 腸で吸収された物質を合成・貯蔵、薬物や毒物の解毒など
血管 ⇒ 全身に栄養素や白血球などを運搬する
このように、様々な臓器で行なわれる働きが、東洋医学の『気』の作用に相当します。
従いまして、『気を高める』とは、様々な身体の各機能を高めたり代謝を上げることで、下記のような『気の性質』である
◇暖かさ(温煦作用)
◇機敏な動き(推動作用)
◇臓器に合った成分に変化させる働き(気化作用)
◇血液中の血小板(固摂作用)
◇血液中の白血球などの免疫系(防衛作用)
が現代医学に相当することになります。
このように、現代では分かりづらい『気』という目には見えないモノなど、『生理学』という現代医学のツールを利用することにより、鍼灸治療が、一般の方々に受け入れやすい環境になると考えています。